ニムロッド(芥川賞)の評価|解説と感想
この記事は2019年1月16日に発表された第160回芥川賞受賞作品、上田岳弘「ニムロッドの評価、解説と感想をまとめた記事です。ニムロッドがどんな話なのか、読むべきかどうかが気になる方の参考になれば嬉しいです。
前提:この記事は読書習慣の無いアラサーが自分用メモに書いているものです。
ニムロッドの評価
ニムロッドを一読した評価としては「よくわからなかった」というのが正直なところ(これは私が純文学の読み方を知らないからだと思います)。
2017年後半から2018年前半あたりで盛り上がったビットコインとマイニングを題材に、主人公と彼女、そしてニムロッドの淡々とした絡みが繰り広げられていきます。
最初に私はこのニムロッドという作品を読んで「よくわからなかった」と書きましたが、しかし読後感はなんとも悪く無い不思議......。
もう2~3回、他者の感想や解説を確認した上で、読んでみれば感想も変わりそう。本作は約140ページと短めの小説なので、だいたい2時間半程度で読み終わりました。
ニムロッドはすごくオススメ!という訳ではありませんが、興味のある方は購入して読んでみても損はしないであろう本でした。
ニムロッドの解説
登場人物
中本哲史(主人公)
ニムロッドの主人公である中本哲史は、ITエンジニアとして東京と名古屋にオフィスを構える企業でサーバー管理をして生計を立てています。
文脈から中本哲史の年齢は30台後半くらいを想像して読んでいました。
謎に包まれたビットコインの創設者サトシナカモトと同姓同名であり、おそらくそれをきっかけにマイニングの業務を任されるところからニムロッドは始まります。
日常生活の中で突然左目から涙が流れる謎の症状に悩まされている以外に特に特徴がないのが中本哲史です。
ニムロッドは、中本哲史を中心に恋人である田久保紀子と会社の先輩である荷室仁との絡みを仮想通貨、描く作品。
荷室仁(ニムロッド)
ニムロッドのタイトルともなる荷室仁は、中本哲史の会社の先輩です。荷室仁はニムロッドを自称しており、序盤は主人公に謎のLINE「ダメな飛行機コレクション」をひたすら送ってくる不思議な存在です。
中盤に差し掛かるにつれ、輪郭がはっきりしてくる荷室仁。
田久保紀子
田久保紀子は、主人公である中本哲史の彼女。外資系のM&Aコンサル業に従事するバリキャリ女性。中本哲史との年収格差はおそらく1000万を軽く超えるであろう田久保紀子は、とあるきっかけで精神状態がやや不安定。
中本哲史とニムロッドのLINEの内容に興味を持っており、何を考えているのかよくわからないのが田久保紀子の特徴。
時代背景
ニムロッドの時代背景は、ビットコインが話題を集めていた時期であり、コインチェック事件などにも触れていることから、2017年の後半〜2018年の前半である事が読み取れます。
ニムロッドの感想(ネタバレ)
ニムロッドの感想としては、ビットコイン(仮想通貨)/ダメな飛行機コレクション/ニムロッドの小説がぐちゃぐちゃに絡み合っていて「突然どうした?」と思うような場面もありながら、最終的に気持ち悪く絡んだ糸が解かれて、心地よい読後感を得られたと言った感じか。
ダメな飛行機コレクション、仮想通貨マイニング、主人公である中本哲史が、荷室仁の書く小説の材料として使われる形で表現されています。読んでいる途中に「序盤の意味のわからない話はここに繋がっているのか.......」と感心する機会が多く、テンポが良いため飽きがこない点は、読書習慣の無い私にとってはありがたかったです。
また、荷室仁が小説の最後に桜花に乗る様子、田久保紀子が最後に「東方洋上にさります」と残して連絡を断つ様子から、最後に主人公が自身の新しく作る仮想通貨の最小単位に友人のあだ名であり、本書のタイトルである「nimrod」とつけてシメる流れは、なんども申し上げますが、心地よい読後感を生み出してくれました。
まとめ
以上、「ニムロッドの評価|解説と感想」でした。私にとってはよくわからなかったが気持ちよく読めて、心地よい読後感を得られたという不思議な体験を与えてくれた小説でした。少しでもニムロッドに興味がある方は、是非読んでみてください。
「嫌われる勇気」の評価(レビュー)・感想
岸見一郎・古賀史健「嫌われる勇気」の評価・感想です。読書習慣の無い28歳男性がアドラーの教えを学んでどのように感じたか、また、どんな影響を受けたかが気になる方は参考にしてみてください。
「嫌われる勇気」の評価
自分が変われば世界が変わる事を理解できる
岸見一郎・古賀史健の「嫌われる勇気」は、周りの目が気になって仕方ない人にぜひ読んで欲しい一冊です。「嫌われる勇気」は、偏屈でコンプレックスの塊とも言える青年が、アドラー心理学を学び教える哲人を論破しようとする中で、嫌われる勇気を持つことで自由になり、幸福を追求することができると諭される話。自分と青年を重ねて「嫌われる勇気」を読むことで、他者の目を気にしながら生きることの不自由さを学び、あなたも自分の世界を変えることができるかもしれません。
対話形式で読みやすい
「嫌われる勇気」は約300ページの本ですが、青年と哲人の対話形式で、読書中に我々が突っ込みたくなる点を青年がハイテンションで突っ込んでくれます。読書習慣の無い私でも5時間程度で1冊読み終えました。
「嫌われる勇気」の感想
「トラウマ」は存在しない
「嫌われる勇気」では「トラウマは存在しない」と、アドラー心理学ではトラウマ(原因論)を明確に否定することから始まります。引きこもっている友人の例を用いると、彼は"何かトラウマがあり外に出る事が困難になった"という原因論を否定し、彼は"外に出たく無い事を正当化しようとトラウマを使う"という目的論で語るのです。
2013年の「嫌われる勇気」発刊から、アドラー心理学をネタにしたコメントなどを見る機会が増えましたが、今でも私の周りには「過去」が原因で「今」を全力で生きる事ができないと嘆く友人が少なからずいます。
「受験に失敗したから就職がうまくいかずにくすぶっている」 「過去にひどい浮気をされて異性を信じて付き合えない」「一度殴られた経験から親を信用しなくなった」
そのような因果関係を用いた悲観的な生き方をしている方は、自ら不幸になる選択をしている。不幸になりたいから過去の出来事を持ち出している。そして、悲観的な世界の見方をしている自分を「変えない事」すら自ら選択している。
人はたとえ不幸であっても、今のままの自分であれば、これから起こることに対する対処方法を知っている。しかし、幸せになるために自分を変えると、何が起こるかわからない。幸せになるためには自分を変える必要があるのに。幸せになるには「幸せになるための勇気」が必要。
私は今現在、不幸であったり悲観的に考える事が多く無いため、関係の無い話かと思いきや、因果論を使うことは多々あり、例えば
「今、私が仕事もプライベートも充溢しているのは、過去の成功体験からきている」
という事も、おそらくアドラー心理学は否定するのでしょう。私が"今"幸福感を感じているのは「成功したとアピールしたいから過去の体験を用いている」と。
人生は他者との競争では無い
私は「嫌われる勇気」で登場する青年と同様にコンプレックスの塊です。常に他者と自身を比較して優位に立つ事を生きがいにしていました。コンプレックスの塊であるがゆえに、良い大学を出て、労働条件の良い職場につとめ、友人も多く、素晴らしい女性と付き合う事で、自身の価値を高めることに執着しています。そして、インスタグラムやツイッター、フェイスブックで同年代の他人と比較した時に単価の高い食事や、海外旅行の写真をアップロードすることで承認欲求を満たす薄汚い人間であると自覚しています。
そのような優越感は、日々感じている「劣等感」からくるもので、そのライフスタイルを選択している人間は幸せでは無いと、アドラー心理学では明確に否定しているのです。
対人関係の軸に「競争」があると、人は対人関係の悩みから逃れられず、不幸から逃れる事ができない。
「嫌われる勇気」P95から引用した一文です。周囲の人間を敵としてではなく、味方としてみること。優越性の追求は、他者との比較ではなく、自分の目指す自分との比較で行う事が肝要であると。
他者と比較して優秀である事を目指し続けていた私は、その生活が真の幸福に届かない事を実感していたため、「嫌われる勇気」のこのフレーズは得心です。そのため、「嫌われる勇気」を読んだ後すぐにSNS全般をアンインストールしました。
自分が変われば世界は変わる
最後に「嫌われる勇気」では自分が変われば世界は変わる。それほどに「わたし」の力は大きい。と語ります。これは日頃から私が考える「自分が変われば世界は変わる」とは異なる考えでした。
実際、私自身も「自分が変われば世界は変わる」と、常に自身に言い聞かせて生きています。しかしその考えは、自己と他者が存在する世界で、他者は何かを強制される事を嫌うため、相性の悪い隣人が存在した場合、まず自分から歩み寄るといった考えでした。
そのため、実際には他者への介入であり、自己の課題と他者の課題を分離していなかったのです。
「嫌われる勇気」でいうところの「自分が変われば世界は変わる」とは、近眼だった者が初めてメガネをかけた時に世界が変わって見えるように、自身が「幸せになる勇気」を持って世界を見る事で、世界が変わって見えるという事。
私の自責思考的考えから、自己と他者の課題を分離し、自分の課題に集中することで、私も少し幸せに近づく事ができそうです。
まとめ
「嫌われる勇気」は、人生哲学のもっともコアな部分である「幸せ」について、知ると知らないとでは考えが大きく変わる智を与えてくれた本でした。今「幸せである」と感じているあなたも、「幸せでない」と感じるあなたも、アドラー心理学についてご存知なければ、一度「嫌われる勇気」を手にとってみてはいかがでしょうか。
「学力の経済学」の評価(レビュー)・感想
教育経済学者の中室牧子さんが書いた「学力」の経済学という本を読んだ評価(レビュー)・感想に関する記事です。「ゲームは子どもに悪影響?」「ご褒美で釣るのっていけない?」といった、子育てに悩むお母さんたちにとっては気になる情報を統計学を用いて読み解こうという本ですね。読書週間の無い私が読んだらだいたい4時間程度で読めました。
学力の経済学の評価(レビュー)
学力の経済学は、学術書として手に取った私にとってはいまいちな本でした。しかし、あまり細かい事を気にせずに、子育てのハウツー本として学力の経済学を読むお母さん達にとっては役に立つ知識がいくつか掲載されていますので、「ゲームは子供に悪影響を与えるのか?」「ご褒美で釣るのっていけないの?」といった悩みを抱えている方は、ぜひ学力の経済学を読んでみてください。
活字が苦手な方向けに、漫画も用意しています。
学力の経済学の感想
学力の経済学の内容としては「良いか悪いかはエビデンスに基づいて考えよう」と「中村牧子氏の政府の教育方針に対する批判」が主です。
良いか悪いかはエビデンスに基づいて考える(+)
学力の経済学で伝えたい本当の主題は「良いか悪いかはエビデンスに基づいて考えよう」という事だと思っています。例えば、ゲームは子供に悪影響なのか。そんな事を実証するデータは無いのです。
確かに毎日部屋でゲームばかりしていれば、学習時間が足りずに成績は下がります。しかし、それはゲームが子供に悪影響を与えているのか、そもそもゲームが無くてもその子は自主学習をしないのではないか。そこに相関関係はあっても因果関係は無い。よって、ゲームそのものが子供に悪影響を与えることは無く、1日1時間程度の息抜きであれば特に問題は無いであろう。
といった形で、エビデンスの無いものを信じてはいかんという考えを説いてくれています。この試みは面白く、私としてもそのエビデンスをどのように取得しているかと気になり学力の経済学を手に取ったわけです。
参考にするエビデンスにセンスがない(ー)
しかし、本の最後に中村牧子氏自身もおっしゃってますが、残念ながら中村牧子氏の持ってくるエビデンスは、日本では無く海外の情報で、それも1990年代のものだったりと、統計としては成り立っていても、現在に通ずるものなのかといえばイマイチな情報なんですよね。
また、中村氏本人の実験や体験結果がほとんどなく、それこそキュレーション記事のように他者の実験結果について論ずるだけという(教育の成果を実験するには干支が2~4回転する程度には時間がかかるため仕方ない話ですが)。
概念の名前を知れた(+)
良かったところといえば、教育の収益率のような、私の知らなかった言葉を学べたことは良かったです。本の良いところは、購入して読んでいるうちに知らない単語が出てくるおかげで、調べる内容が増えることですね。
政府の統計方針や教育方針に対する批判(ー)
中村牧子氏の本なので、好きに書いてくれれば良いのですが、4章の終盤以降は少人数学級制に対する批判や、統計調査を学者が一般に解放していない事を、批判しているような内容ばかりで、この本の読者に対する配慮に欠けているなと感じました。
ひょっとしたら帯の内容を中村牧子氏は知らないのかも知れませんが、この本を手に取った読者はそのような中村牧子氏の政府批判に興味は無いはずです。
まとめ
学力の経済学は私にとってはイマイチな本でしたが、中村牧子氏の政府批判や中途半端なエビデンスに興味のある方にとっては面白いのかも知れません。また、エビデンスのない情報に振り回される事に対する警鐘は必要でしょう。
もし、あなたが学術書として読むのであれば、オススメはできませんが、子育てのハウツー本として読むのであれば、役に立つ知識はいくつかありました。
では、ここまで読んでくれてありがとうございました。